街のなかでみつけた音 吉村弘

富澤哲哉

・序章

 タウンリスニングの魅力は、同じ音を聞けないということである。同じ場所にいても天候や時間によって様子は変化するので、意外性や偶然性といったハプニングを楽しむことができる。騒音さえも楽しむことができる。騒音というと無視できない範囲の生理的に拒否反応を起こしてしまう音で、身体に悪影響を与える音である。しかし、電車や自動車の中などやかましい空間にいても眠気にさそわれることがある。それは、うるさくてもゆらぎのある安定した音は、安心できる音だからである。逆に安定した音の風景のなかに意外性が加わることで、場の緊張感を高めたりやわらげたりすることができる。西洋の文化としてはこのような騒音は自然と対峙するが、アジアの文化はこのように自然と同化して、いつのまにか平静な音空間をしてとらえる環境的聴取の文化が形成されてきた。にぎわいのある場所には人が集まるが、その原因として、意外性が何か期待感をもたせる、環境全体が調和されていて疎外感を感じない、にぎわいを後にして壮快感がのこる、といったことが挙げられる。

 多くの人々が集まる公共空間の音は、いまだに画一化した発想であるため、アートを取り組み人間性を取り戻す関心が高まっている。代表的な例としては駅のホームを、サイン音やアナウンスによって快適で明るい環境にする取り組みが最近盛んだが、より良い駅環境を目指すためには、サウンドデザインの方向性を広い視野から見直す必要がある。ロサンゼルスでは、パブリックアートを取り込んで、アートのもつヒューマニティとクリエイティヴィティを積極的にリンクさせ駅空間の質を高めていた。パブリックアートの範囲は広く、環境を構成する様々な視点から成り立つため、今後公共空間においてとても重要になってくる。

・観察記

観察記という形で、街にはこのような音があるんだよ、という具体例を地名篇と事項篇に分けて書いて、タウンリスニングの魅力を伝えている

・地名篇

天王州アイル(眺めのいい場所)・晴海(トワイライトタイムの楽しみ)・霞ヶ関(光のコンサート)・渋谷(ハチ公の耳)・原宿(ストリートシーンからの発信)・広尾(近景の音、遠景の音)・秋葉原御徒町(迷宮に魅かれて)・練馬(静けさを尋ねて)・市原(童心にかえる日)・横浜(都市の音環境について)・丹後(鳴り砂の誘惑)・瀬戸内(美術館建設の未来)・新野(雪祭りは招く)・伊勢崎(サウンドデザイン考)・砺波(音の景観に思う)・シアトル・ロサンゼルス(パブリックアートの旅)・ロサンゼルスⅡ(鉄道とアートを結ぶ)

・事項篇

サウンドスケープ通信(世界の音環境ニュース)・サウンドガーデン(音の美術館の試み)・サウンドデザイン(都市の新たな顔を目指して)・サウンドステッカー(イメージの広がり)・騒音(環境的聴取ということ)・未来派(都市の出口で)・装置(水音を作る)・仕掛け(バルビゾン派の竹下通り)・鈴音(日本の風情)・親水公園(みずみずしい環境)・放送局(地球の音の試み)・ショー(化粧と音楽のノリ)・レコード店(音楽は世につれ)・討論(20世紀の音をめぐって)・調査(音の探検隊レポート)・朝(おはようサウンド)・足(足音の行方)・犬猫(ワンダーランドとキャットストリート)・劇場(パフォーマンスシーンにふれて)・茶室(利休が聴いた音)・散歩(街のノイズを聞く)・時報音(東京と平安京)・食(ターベルミュージック)・手(おにさんこちら…)・ドア(心理の響き)・夏(音楽涼法の話)・波(幻の波の音)・葉(くつろぎのE感覚)・橋(未来形の風景)・ハミング(地球の記憶)・水(耳を開く音)