研究室運営
• 研究室に配属されると各自専用のスペース(机)とPC(ネットワーク接続)が 割り当てられます。
• 従来、研究室にいる時間は自由としていましたが、確実に研究を進めて卒業して頂くため、必ず来て頂く時間(例えば午前10:00〜)を設けることを考えています。
• 研究の進め方としては、おおむね週1回のゼミを行い、その場で進捗状況の報告や、質疑などのディスカッションを行います。その他、教員が随時指導を行います。
• 研究室配属後の当初数ヶ月はおおむね、環境工学の授業や演習で習ったことの復習を含めた勉強、ソフトウエアの使い方などの学習により基礎を固めます。おおむね夏から秋口に研究テーマと方針を決定し、実質的な研究にあたります。
受入れ人数
5名 (他教員と同じ)、うち卒業設計選択者1名以内
大学院への進学
歓迎です(受入れは他教員と同様)。
研究テーマの概要
本研究室ではおもに、建築分野における音環境 (+光環境が少々) に関する研究を行っています。 今年度、本研究室で対応できるテーマは以下のようなものです。
1.市街地における騒音伝搬に関する実験・シミュレーション
2.航空写真・航空レーザー測量による広域音響特性の把握と音響伝搬予測
3.現場における材料の音響特性測定法の比較
4.環境音を用いた環境(騒音、風、気温)計測手法の実証
5.3次元多点自動測定によるアコースティック・イメージング
6.【追加】気象条件(風、気温)による音の伝わり方の変化の測定
7.光環境の印象評価研究
8.その他、音、光、衛生設備に関するテーマ
テーマ詳細
テーマ概要で記したテーマについて、以下に解説します。
1.市街地における騒音伝搬に関する実験・シミュレーション
都市や郊外において、道路・鉄道・航空機による交通騒音、工場から発生する騒音などの環境騒音の伝搬状況の正確な予測は、よりよい居住環境の実現にとても重要となりつつあります。そこで、近年大幅に進歩した音響シミュレーション技術を使おうという発想が出てきます。ただし問題は、そのようなシミュレーションの結果の検証です。実際の現場での測定結果と照合出来るのが一番ですが、色々な音が絡み合う町中で精密な測定を行うのは困難です。そこで、1/100スケール程度の市街地の模型を作って、その模型を使って音響測定室で測定することが考えられます。ここ数年、本研究室ではそのようにシミュレーションと実験の両面から、予測技術の開発を進めています。
実際の市街地をモデリングし、大規模なシミュレーションを実施する技術に関しては、本研究室は世界的にも例のない実績を有しています。平成26 年度は国際会議で招待講演を行い、その場で平成24年度卒研生が実施した研究を紹介することができました。
本技術の応用例の1つとして、特に近年、都市緑地、建物緑化など、植物を都市内に配置することによって、植物が音を吸音することで騒音低減を図り、都市の音環境を改善する効果が欧州で注目され、盛んに研究されています。騒音低減に効果的な植物の配置や、配置する植物の種類、量の検討が考えられます。
こんな人が、特に向いています:
◦多数の測定を行うので、根気のある人。
2.航空写真・航空レーザー測量による広域音響特性の把握と音響伝搬予測
上記の市街地における音響伝搬予測において重要になるのが、どの場所の地面がどれくらい音を吸音するかといった吸音率の分布です。吸音率が高い地面が多ければ、その地面の上を音が伝わる間に減衰し、音が伝わりにくくなります。地面の音響特性が必要なとき、従来は現場で吸音率を測っていました。しかし、広域での音響伝搬予測を行う際に、いちいち現場で測るのは現実的ではありません。
そこで、「航空写真」や「航空レーザー測量データ」といった、専用の観測機器を積んだ飛行機を飛ばして、上空から広域にわたって得られた情報(専門的には、リモートセンシングデータと言います)
から、自動的にそれぞれの場所の吸音率の分布を計算出来ると便利です。
ただし、普通の航空写真(Google maps等ですっかり身近になりました)は赤、緑、青の3色に分けて画像データを取得しますが、この研究では、より細かい色に分けて撮ることが出来るハイパースペクトルカメラというカメラで撮影します。そのために、平成25年度は実際に飛行機を飛ばし、航空写真を撮影しました。平成26年度は、その撮影データと撮影地域内で実測した吸音率を用いて、吸音率を計算する理論を構築し、実証に成功しました。
そこで本年度は、求めた吸音率分布を使って、写真撮影と同時に実施したレーザー測量データと組み合わせて音響伝搬を計算し、実際の市街地における吸音率の音響伝搬への影響を定量的に評価します。
この研究の面白い点は、地べたを這い回る測定から、上空からの一網打尽へという発想の転換、あるいは航空写真やレーザー測量と音環境という、一見関係なさそうなものどうしが非常に効果的に結びつくところです。本研究もまた、世界的に見ても独創的な研究で、最先端と自負しています。
こんな人が、特に向いています:
◦音、光、統計など、基礎的だが多分野にわたる知識を身につけることが億劫でない人。
3.現場における材料の音響特性測定法の比較
環境騒音の伝搬状況の現状把握や予測において、地面の音響的な性質、すなわち吸音率を正確に把握しておくことが重要となりつつあります。地面の吸音率をその場で測る方法は幾つかありますが、平成26年度には、そのなかの1つの手法を使って実測を行いました。しかしながら、1地点の測定にほぼ半日かかるなど、それなりに大変であることが判りました。一方で近年は、幾つかの計測方法が提案されています。そこで、どれが効率よく、かつ正確に測れるのか、検討を行います。
こんな人が向いています:
◦色々なオーディオ機器や細々とした実験器具を扱うので、そういうものが好きな人。
4.環境音を用いた環境(騒音、風、気温)計測手法の実証
私たちの身の回りにあふれる「音」は、ただ「音」として存在するだけでなく、その中に環境に関する情報が含まれていることがあります。特に、音の伝わる速さ(音速)を測ることで、色々な情報を引き出すことができます。例えば、ある場に風が吹いていれば、風下方向に音が伝わる速さは速くなります。その速さと本来の音速の差を取ることで、風速を求めることができます。このような原理に基づき、環境に溢れる音を利用した、あらたな環境計測機器を開発し、都市に展開して環境モニタリング装置として活用するのが本研究の最終的な目的です。
個人的な意見ですが、究極の実験とは、新たな計測機器を自分で作ることだと思っています。そのようなことを実現できるのが、本研究の面白いところだと思います。
5.3次元多点自動測定によるアコースティック・イメージング
我々は音という、目に見えない物理現象を扱っています。したがって、音を聴覚以外で表現するには、「音圧レベル」のような数値によるのが一般的です。しかしながらコンピュータシミュレーションデータのような、大量の数値データを用いることで、音が伝わる様子をアニメーションにして目で見る(アコースティック・イメージングと呼ばれます)ことができるようになりました。シミュレーションのみならず、実験でも原理的には同じようなことが出来ますが、莫大な数(数万回〜数百万回)の測定を行うことが必要であり、従来はとても現実的ではありませんでした。しかし、最近は、いわゆる「メイカーズ」ムーブメントにより、3Dプリンタやマイクロデバイスが進歩した恩恵で、色々な自動制御のシステムを(従来に比べれば)簡単に作れるようになりました。そのようなデバイスを用いて、自動測定によってアコースティック・イメージングを行う装置を開発製作します。
こんな人が向いています:
◦理工系のモノづくりに興味があり、手を動かすのが好きな人。
6.【追加】気象条件(風、気温)による音の伝わり方の変化の測定
屋外にて風が吹いているとき、風下方向には音が良く伝わるが、風上方向にはなかなか伝わらない、ということは皆さん経験したことがあると思います。おおよそには誰もが知っているような現象ですが、では具体的に、「毎秒何メートルの風が吹くと、何デシベル伝わりやすくなる/伝わりにくくなるのか?」に関しては、実は意外な程よく判っていません。判っていません、というのは単に日本の音響に携わる技術者が知らないだけでなく、世界中の誰にもほとんど判っていません、というレベルで判っていません。
平成22年度〜平成23年度と平成26年度は卒研生に、平成24年度〜平成25年度は修論生に研究してもらいました。
このテーマの面白いところは、音、風の測定それぞれについては3年生の環境工学演習でやったような基本的な測定(風の測定は演習ではやっていませんが、こちらも測定としては基本的な物です)でありながら、両者を組み合わせると、いきなり世界的にも先端的な研究になることでしょうか。平成22年度の論文は、報道機関による大学の国際論文数ランキング等にもカウントされる、有力な国際論文誌に掲載されました(全文は学内からのみ閲覧可能)。先端的すぎて共同研究する相手がおらず、本研究室のみの単独の研究です。
もちろん、面白いだけでなく、実用的にもとても重要な研究です。防災無線の声を風の状況によらず確実に届かせることは、先日の震災で防災無線に従って避難された方が多数おられるとおり、人を救うことにつながります。また、道路交通騒音を風の影響によらずある一定のレベルに抑えることは、都市生活において年々生活の質が重視される傾向にあることから、これも大きな重要性を持ちます。
今までの研究で、道路の種類(盛土道路、平坦道路)で、風の影響が若干異なることが判っていますが、対象地の数が少なく、確定的に言える段階ではありません。今年度は、対象地を変えながら、より多くのデータを収集しようと考えています。
こんな人が、特に向いています:
◦出不精でない人。野外測定になるので、なんといってもこれが一番 です。
◦機材の配線(ケーブルを切ってコネクタを付けたり)や、測定系統の作成などが出てくるので、ちょっとしたアイデアを出したり手を動かすことが得意な人が、より向いています。
7.光環境の印象評価研究
光環境の研究についても、希望者がいれば対応しています。あまり本格的な測定機材が無いので、本格的な測定実験や開発よりも、ある特定の光環境に対する人間の印象を問う、印象評価実験(アンケート調査)が主体となります。どのような研究が可能かは、以下のテーマ実績を参考にしてください。
過去のテーマ例:
◦有機EL照明のタスク照明への適用(2011年度) [スライド]
◦飲食店における光環境の印象評価調査(2009年度) [スライド]
◦店舗ディスプレイ照明とその印象の関係についての研究(2004年度) [スライド]
店舗ディスプレイを撮影した写真から面的な輝度分布(輝度偏差)を 割り出し、その輝度分布と印象評価の関係を被験者実験によって調べました。
8.その他、音、光、衛生設備に関するテーマ
過去のテーマ例:
◦格子の視覚的印象についての研究(2006年度) [スライド]
建築において和洋・時代を問わず普遍的な意匠・構造表現であ る「格子」について、意匠(材質・デザイン)と印象評価の関係を調べ ました。
◦公共空間におけるサウンド・アートに関する調査研究(2006年度) [スライド]
質問・連絡など
• 教官室: 環境エネルギー棟4階406号室。大嶋本人が応対します。